『エンブリオ』
- 作者: 帚木蓬生
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2002/07/19
- メディア: 単行本
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「エンブリオ」=受精後8週までの胚(胎児以前)。そこはかとなく「禁断」の匂いのするタイトルです。でも最近、本屋さんに行くと、この作家さんの「閉鎖病棟」が、やたらと絶賛されているようだし、これは期待できそう!と思って読み始めたのですが…、
いやあ、長かった。ものすごく長く感じてしまいました。ミステリーというよりも、内容は「生命操作」の是非を問う医療もの、ととらえた方がよいのかしらん。そういえば私の中の引き出しにはまったくなかったジャンル。
主人公は、不妊治療のスペシャリストとして患者たちから慕われる、天才産婦人科医師・岸川卓也。でも、そこには隠されたもうひとつの顔があった…。
自らの精子を使っての体外受精はもちろん、堕胎させたエンブリオの臓器を人工培養して臓器移植を行う、あるいは、男性の腹腔内に受精卵を移植して「妊娠」させる、とまあ、タブーのオンパレード。記号化され、人工子宮を使って飼育されるエンブリオ。病院地下の秘密のファームで行われる闇の研究がなんとも不気味です。
でも、最先端の医療技術をとめどなく駆使していけば、ここまでのことができてしまうんだ、と想像させるだけの内容が盛り込まれていて、人間の欲の異常さと、医療行為の難しさ(傲慢さ?)を大いに突きつけられます。
考えさせられたのは、法に触れなければ、巨額の医療費を投じてでも、その最先端治療を望む患者はいるという事実。たとえそれが倫理に反する行為でも…。需要と供給というか、「望む人あらば」で、こんなことがまかり通ってしまうのか…と考えるとやっぱり怖い。
う〜ん。でもこの主人公は、やっぱり女性には受け入れられにくいですよ。というか、悪役なりに、もうちょっと感情の厚みというか葛藤があればなあ。お金も、地位も、女性も、すべてを欲しいままにしてしまう残酷でしたたかな野心家。でもそれだけ。最後は、ちょっぴり嫌な後味でした。でも後半5分の1の展開はそれなりに面白かったです。
これはぜひ「閉鎖病棟」で、お口直しをさせていただかなければ!